職業の概要
航空管制官は、空の交通を安全かつ効率的に管理する国家公務員です。パイロットと無線で連絡を取りながら、航空機同士が衝突しないよう指示を出し、天候や飛行計画を考慮して航行を誘導します。人命に関わる重大な責任を伴い、どのような状況でも冷静かつ的確な判断が求められる職業です。
仕事内容
航空管制官の業務は、担当する空域によって以下の3つに大別されます。
1. 飛行場管制業務 空港の管制塔から目視で航空機を確認し、離着陸の許可や空港内での走行経路を指示します。空港を中心とした約9km圏内の空域を担当します。
2. ターミナル・レーダー管制業務 離陸した航空機を安全なルートに誘導し、上昇させる業務 です。レーダー画面を見ながら、高度やスピードを指示します。
3. 航空路管制業務 空港と空港の間を飛行する航空機に対して指示を出す業務です。複数の航空機を同時に監視し、安全な間隔を保つよう管理します。
これらの業務は24時間365日体制で行われるため、夜勤や早朝勤務も含まれます。
働く場所
- 全国の主要空港の航空管制塔
- 地域上空を管理する航空交通管制部(札幌、東京、福岡、那覇の4か所)
- 航空自衛隊や防衛関連の空域管理部門
- 国土交通省本省(行政・管理部門)
平均年収
💰 約580万円〜730万円
人事院の令和5年国家公務員給与等実態調査によると、航空管制官の平均年齢42.6歳、平均経験年数20.3年で、平均給与月額は44万6205円、平均年収は約732万円です。
年代別の目安:
- 20代(新卒):年収約350万円〜
- 30代:年収約450万円〜
- 40代:年収約700万円〜
- 50代後半:年収約850万円〜
2025年4月採用の初任給は約24万2000円程度 Mlit(研修期間中も給与支給)。航空管制官には一般の行政職職員より2割程度高い「専門行政職俸給表」が適用 Agarootされます。
主な手当:
- 航空管制手当
- 夜間特殊業務手当
- 夜勤手当・休日給
- 住居手当(最高2万8000円)
- 通勤手当(最高15万円)
- 期末・勤勉手当(年間俸給等の約4.65か月分)
なるための道のり
STEP 1: 航空管制官採用試験に合格
年齢制限などの応募資格をクリアすれば、基本的には誰でも受験可能で、免許など受験に必要な資格はなく、学歴も不問です。
受験資格(いずれか):
- 試験実施年度に30歳に達する方まで
- 上記年齢未満で大学・短大・高専を卒業した方または卒業見込みの方
試験内容:
第1次試験(筆記)
- 基礎能力試験:数的処理、判断推理、空間把握、文章理解など
- 適性試験Ⅰ部:記憶力、空間把握力、情報処理能力
- 外国語試験:英語の読解・聴解(リスニング)
第2次試験(面接)
- 人物試験:日本語面接
- 外国語試験:英会話能力
第3次試験(大阪府泉佐野市の航空保安大学校で実施)
- 適性試験Ⅱ部:航空管制業務シミュレーション
- 身体検査・身体測定:視力、色覚、聴力など
難易度: 2024年実施の令和6年度航空管制官採用試験の最終倍率は3.5倍で、国税専門官2.5倍や財務専門官2.8倍と比べて高い水準です。
STEP 2: 航空保安大学校で8か月の研修
合格後、航空保安大学校で8か月の研修(航空管制官基礎研修課程)を受講します。授業料・教材費・寮費はすべて無料で、研修中も給与が支給されます。
STEP 3: 配属後、技能試験に合格
全国各地の空港や航空交通管制部に配属され、実地訓練を受けます。技能試験に合格して初めて、正式に航空管制官として発令されます。
難易度(★で表示)
| 項目 | 難易度 | 説明 |
|---|---|---|
| 受験資格 | ★★☆☆☆ | 学歴不問だが、身体条件(視力・聴力・色覚)あり |
| 採用試験 | ★★★★★ | 倍率約3.5倍。英語力、適性、シミュレーション能力が必須 |
| 研修・実務 | ★★★★☆ | 8か月研修 + 配属後の技能試験まで1〜2年 |
| 総合評価 | ★★★★☆ | 高度な知識・判断力・精神力が求められる難関職 |
必要なスキル・適性
航空管制官に求められる主な能力は、高い外国語能力(英語)、空間把握力、物事の全体を見渡す視点と短期記憶力です。
重要なスキル:
- 英語力:業務の大部分が英語で行われます。リスニング・スピーキング・リーディング全てが必要
- 空間把握力:三次元空間での航空機の位置関係を瞬時に理解する能力
- 集中力・注意力:長時間にわたり複数の航空機を同時に監視
- 判断力・決断力:刻々と変化する状況で瞬時に最適な判断を下す
- ストレス耐性:プレッシャーの中でも冷静に対応
- コミュニケーション能力:パイロットや他の管制官と正確に情報共有
向いている人・向いていない人
向いている人
- 高い責任感と使命感を持っている
- 航空機や空に強い興味がある
- 緊急時でも冷静に対応できる
- チームワークを大切にできる
- 英語学習に意欲的に取り組める
向いていないかも
- 極度のプレッシャーに弱い
- マルチタスクが苦手
- 不規則な勤務(夜勤・シフト制)に対応できない
- 継続的な学習や訓練が苦手
将来性
国土交通省の航空輸送統計速報によると、国内線の旅客数はコロナ禍前と同等の水準まで回復し、今後さらに増えることが期待されており、航空管制官のニーズも高まっている状況です。
AIと自動化について: 航空管制業務の完全自動化は現状では困難で、三次元空間で複雑な判断が必要な航空管制では、人間の判断が不可欠とされています。2030年以降に見込まれる交通量の増加に対応するため、AIを活用した管制支援システムの開発が進められているが、これは管制官を支援するツールとしての位置づけです。
高度なシステムを扱い、自身の目や耳を使って航空機を誘導する航空管制業務は航空管制官にしかできない仕事で、秒単位で変化する天候や気流などを捉える業務が完全に自動化することは考えにくく、航空管制官という仕事がなくなることはないと考えられています。
まとめ: 航空需要の増加とともに、航空管制官の役割はますます重要になっています。AIは管制官の業務を支援するツールとして発展しますが、最終的な判断と責任は人間が担う職業として、安定した将来性があります。
進路アドバイス(高校生・保護者向け)
おすすめの進学先: 航空管制官採用試験に学部・学科の制限はありません。航空保安大学校では航空気象学や無線工学などの理数系科目、法令などの文系科目の両方を学ぶため、研修期間に知識を付ければ十分に業務を行えるとされています。
文系・理系どちらでも目指せますが、以下の分野が有利です:
- 文系:英語・英米文学、国際関係学、法学など
- 理系:航空工学、物理学、気象学など
重要なポイント: 試験対策の時間を確保できることも考慮し、自分が学びやすい分野を選ぶことをおすすめします。最も重要なのは英語力の向上と、採用試験に向けた計画的な準備です。
引用文献・参考資料
- 人事院「令和5年国家公務員給与等実態調査」
- 国土交通省 航空保安大学校 公式サイト「2025年度航空管制官採用試験」https://www.cab.mlit.go.jp/asc/exam/
- 国土交通省「航空管制官 公式サイト」https://www.mlit.go.jp/koku/atc/
- 厚生労働省 職業情報提供サイト jobtag「航空管制官」
- 国土交通省「航空輸送統計速報(令和5年分)」
- アガルートアカデミー「航空管制官の給与・年収解説」
- スタディサプリ進路「航空管制官の年収・将来性」

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